愛のあいさつ

拝啓

 

 わたしはあなたに、一冊の本を贈ります。

 わたしは不器用で口下手なので、うまく気持ちを伝えられません。それがあなたを前にするといっそう緊張してしまって。どうかこの本を受け取ってください。そして、細部まで何度も何度も読んでください。からだに直接触れるより、こうして、やわらかくじっくりとわたしのことを知ってほしいのです。すごく色っぽいことだと思いませんか。ちょっと照れてしまいます。

 もしも、この本を読んで、というよりこうした本を贈るという行為がメンドクサイと思うのなら、きっとうまく行きっこないですね。それならそれでよいのです。「これ」がわたしなのですから。わたしはあなたが好きなのです。愛しているのです。本当に、本当にあなたを愛しているのなら、本当はお返しの愛なんていらないはず。でも、それでも少しあなたからの想いに期待してしまうあたり、わたしはやはり弱いのですね。女なのですね。もう嫌気がさしてしまう。わたしはあなたが好きなのと同じくらい、あなたが嫌いです。

 派手なことは望みません。お邪魔はいたしません。どうか、ほんの一瞬だけでも、あなたのそばに居させてほしいのです。ことばを贈り贈られる関係って、すてきだと思いませんか。

 わたしはあなたに、一冊の愛を贈ります。もしも、あなたがこのわたしの愛を受け取ってくださるなら、どうかあなたも、あなたのお気に入りの本をわたしに贈ってください。

 それでは、お待ちしております。

 

敬具